| 靴業界シリーズ4. 駆け巡るパクリデザイン | ||||||
| 九尾狐 ◆85KeWZMVkQ氏 | 1 | 2 | 3 | 4 | ||
234 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 04:19 ID:HiyfcHR2 私も靴業界に馴染んで、猛者達の末席に名を連ねた頃、韓国にもかなり慣れてきて、 韓国のクラブにも飲みに行くようになりました。薄給の私にも、韓国のクラブは 財布にやさしく、それなりに楽しめるのです。 でも、観光地はそれほど安いわけでもないので、注意はしてください。 そのときの出張はいつもの定宿がとれなかったので、ちょっとギャンブルをやろうと 思い、なんとラブホテルに泊まってみたのですす。 日本とは違い、ちょっとはでめな民家といった印象でした。 最初、フロントで部屋をとるときに、 「女の子は5,000円ですけどどうですか?」と... オールナイトで5,000円は安いとは思いましたが、ちょっと危険な感じがしたので 断りました。 ------------------------------------------------------------ 235 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 04:31 ID:HiyfcHR2 翌朝、韓国のエージェントでも仲の良い従業員がわざわざ迎えに来てくれました。 「今回の製品は初めてのメーカーなので担当さんを紹介するニダ」 「はい、お願いします」 車はソウル郊外の工場へと向かっていました。 今回の目的は初めての工場にサンプルを作らせて、その工場の出来栄えを検証する ことが目的でした。日本からは革の指示から、アッパーの紙型まで送ってあり、 それがイメージ通りに出来上がっているかをチェックすることです。 朝の渋滞を抜け、1時間半ほど走ったところに工場はありました。 社長が出迎えに来て、工場内の事務所で簡単な打ち合わせを行いました。 ショールームには今までの製品が並べられ、靴の製造工程のレクチャーが行われ ました(そんなものは当然知っているのだが)。 やはりご多分に漏れず、いかにこの工場が良い製品を作り出すかの自慢から始まり、 息子の大学進学から海外留学の話まで、はては社長の子供のころの話までにおよび、 それが昼までえんえんと続きます。 ------------------------------------------------------------ 237 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 04:45 ID:HiyfcHR2 昼食後、やっと工場の視察となりました。工場の中ではじめて工場長(今回の担当)と 挨拶をかわし、依頼したサンプルを見せてもらいました。 「革も指定のカーフを使っていますし、仕上げもきれいですね。」 実際、初めての取引だったので気合が入っていたのかもしれません。 これくらいの出来なら、量産で2割くらいの品質落ちでもなんとかなると思い、とりあえず OKを出しました。すっかり社長も工場長も上機嫌で、今夜の接待の話になります。 まぁ、夜までは時間があるので、ラインの見学をしたあと、再び事務所で社長の自慢話に つきあうことになりました.... 「狐さん、今夜のホテルは決まっているニカ?」 「いえ、まだとくに決めていませんよ。」 「それなら近くにホテルをとりますので、明日も工場を見ていってください。」 「すいません。それならぜひお願いします。」 こりゃ、次回の発注も含めて過剰な接待をうけちゃうな... やはり韓国ではどこでもそうだが、過剰な量の酒を飲むものです(藁 社長いわく、 「この店の焼肉は韓国一うまいことで有名です。どんどん食べてください。」 韓国一うまい焼肉屋はこれで7軒目であった ------------------------------------------------------------ 238 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 04:56 ID:HiyfcHR2 翌朝、エージェントさんが迎えに来てくれて、きょうも工場の視察です。 これで何事もなければ実に平和的に仕事は終わるのですが、これではネタになりません。 工場の裏手は小高い山になっていて、出荷を待つ商品が箱詰め作業をしているところです。 ちょっと一服しようとして、ひとりで裏手でタバコを吸っていました。 2人の従業員がどこかに出荷するための靴を箱詰めしています。 彼らに近づいて、どんな靴を箱詰めしてるのか見に行きました。 「ん?」 なんと、その箱詰めしている靴はうちの会社がサンプル依頼した靴そのものではないですか! うちのデザイナーがデザインして紙型をおこして発送したものが、うちがサンプル段階で なぜ、量産されて箱詰めしてるのか? 手にとってよく見てみると、中底のタグが同業他社のブランド表示。 これはいったいどういうことなのか? 私はその靴を1足持って、事務所に駆け戻りました。 ------------------------------------------------------------ 241 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 05:14 ID:HiyfcHR2 「ちょっと国際電話ですけど、電話借りていいですか?」 「どうぞ」 事務所の女性従業員が受話器を貸してくれました。かけた先はデザイナーです。 「もしもし○○さんですか?今回のサンプルの××ですけど、あれはオリジナルですよね?」 「そうですけど、どうしました?」 「第三者製靴(仮名)がまったく同じもので作っています。」 「うそ〜。似てるとかでなくて?」 「いやいや、内羽のカットとかけっこう独創的じゃないですか。まさにそのものですよ。」 「ちょっと待って。第三者製靴に問い合わせて見る。折り返しすぐ電話するから。」 デザイナーさんはかなりあせっていました。このままではうちがパクリになってしまう。 なによりデザイナーさんは立つ瀬が無い。オリジナルのデザインが3ヶ月も早く他社から 販売されてしまうなんて前代未聞だ。この業界はけっこう横のつながりがよかったりするから、 類似デザインはあっても、盗んでやることなどほとんど聞いたことがない。 なにより、そこの会社に比べ、うちの会社のほうがはるかに規模が大きい。 こんなことが問題になったら、あそこは業界から干されてしまう。 5分後、デザイナーさんから電話がかかってきた。 「今、確認できました。」 「どうでした?」 「もともと第三者製靴さんはそこのメーカーを使っていて、不良品がでたので代替品として うちのサンプル××のサンプルを2週間前に送ってきたそうです。納期がせまっていたので、 それを代替品として発注したそうです。そっちのほうでも経緯の確認をとってください。 今、社長が第三者製靴さんと電話でなんか怒鳴っています。」 「わかりました。経過がわかり次第すぐ連絡しますね。」 ------------------------------------------------------------ 247 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 05:26 ID:HiyfcHR2 「社長、ちょっとこれはどういうことですか?」 私はさきほどのパクリ物と、うちのサンプルを並べて社長の前につきだしました。 一瞬、社長はギクリとし、工場長と顔を見合わせました。 「これは良く似ているどころか、中敷以外は全く同じものですね。」 「い、いや、ストレートチップなんてどれも似たようなものだから...」 「その中でもこれはオリジナルデザインなんですよ。」 「いや、知らないニダ。これは第三者製靴から依頼されたデザインで半年も前に 注文もらったやつニダ。」 「なんで、第三者製靴が同じデザインで注文するんですか?第三者製靴がデザイン 盗んだのですか?」 「そうとしか考えられないニダ。」 「では、直接聞いて見ましょう。」 「・・・・」 どうやら社長は間違いなく嘘をついていると思われる。もちろん私も第三者製靴の 営業さんとはよく知っている仲だ。とりあえず、デザイナーさんに再度電話をしてみる。 「狐です。どうなりました?」 「やはり、第三者製靴さんの言ってることは間違いないようです。」 「そうですか。では第三者製靴さんにここの狐あてに電話してくれるよう伝えてくれますか?」 「どうかしたんですか?」 「ここの社長の話では第三者製靴さんがデザインを盗んだといっています。」 「ははーん、そういうことですか。すぐに電話してもらいますね。」 電話のむこうのデザイナーさんは薄ら笑いをしているようだった。 ------------------------------------------------------------ 254 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 05:40 ID:HiyfcHR2 ほどなくして電話がかかってきた。 「狐さん、第三者製靴さんからお電話です。」 「わかりました。もしもし?」 「あ、狐さんですか?第三者製靴の狸です。 このたびはご迷惑をおかけしました。すいません。」 「いえいえ、狸さん。とりあえず、真相はどうなんでしょう? ここの社長は狸さんのところが、うちのデザインを盗んだといっていますが?」 「えっ?なんですかそれは?ちょっと社長と代わってください。」 私は無言で社長に電話を代わった。 社長はばつの悪そうな顔をして黙って電話をとりました。 社長は必死にとりつくるような感じであったが、狸さんの怒鳴り声がここまで 聞こえてきた。しばらく社長は狸さんの怒鳴り声を聞いたあと、私に受話器を 渡しました。 「あっ、狐さん、今回の靴は私のところで売るわけにはいかないので、御社の 社長さんと対策を考えます。」 「わかりました、狸さん。今回の事件は私も初めてのことなので、私の判断では どうしようもありません。とりあえず日本に帰ってからお会いしましょう。」 「そうですね。それではお気をつけて。」 私は受話器を置いて、社長に問い詰めた。 「話が全然違うじゃないですか。今回の事件はどうします?」 「そんなことはない!狸が嘘をついてるニダ!」 「まぁ、今さらそんなことはどうでもいいです。 私は日本に帰りますが、後日、うちの社長と第三者製靴さんから連絡があるでしょう。 とりあえずこのサンプルはもらっていきます。」 エージェントさんがばつが悪そうにしていましたが、とりあえずソウルに戻ることに したので、車に乗り込みました。 ------------------------------------------------------------ 258 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 05:48 ID:HiyfcHR2 結局、第三者製靴が発注したパクリ物は代金が支払済みであったため、そのまま 入荷し、うちの社長が同額で買い取ることで決着がつきました。 で、第三者製靴さんはこのままだと穴があいちゃうので、うちの社長の計らいで、 他のうちの使っていたメーカーから、同程度の在庫品を輸入できるように手配する こととなりました。第三者製靴も無事納品できることになり、うちも正規発注と サイズ組と数量は異なってはいましたが、予定単価の2/3で仕入れることができ、 丸く治めることが出来ました。 で、韓国のメーカーですが、当然、お互いに取引停止。 さらにうちと第三者製靴から賠償請求され、少ないながらも賠償金を受け取ったそうです。 めでたしめでたし。 (終劇) ------------------------------------------------------------ 261 名前:九尾狐 ◆85KeWZMVkQ 投稿日:03/09/14 05:52 ID:HiyfcHR2 お疲れ様でした。 最後のほう、なんか端折っちゃった感じになっちゃったけど、 今回の当事者としては、深刻というか、けっこう気楽だったんですよ(藁 第三者製靴(仮名)にとってはシャレにならないとこだったけど(藁